2022年に入り、テレワークから出社に切り替える大企業が増えてきています。
ニュースでもいくつか報道されており、「この会社も出社に切り替えか!?」と驚くこともありました。
直近でメディア等に発表のあった、テレワークから出社に切り替えて出社頻度を上げていくと宣言した企業は以下の通りです。
出社頻度が3~5日以上とかなり多くなっています。
このような大企業だけではなく、一旦推進したテレワークを継続するのか、はたまた出社に切り戻すのか判断に悩んでいる企業は多いと考えます。
今回は、テレワーク実施状況今後の出社に対する世の中の動きについて考察していきます。
もくじ
テレワークを継続する企業を見抜く難しさ
今後転職する方がテレワークを希望する際の企業選びの一つの材料になればと考えています。
転職面接の際に現在のテレワーク実施状況について聞くと回答してくれる企業がほとんどでしょう。
ただし、面接時にテレワーク推進されていたのに入社後もテレワークが継続されるかどうかまではわかりません。
テレワーク実施企業だと聞いて入社を決めたのに、「テレワーク実施企業だと思って転職したのに急に出社比率が上がった。」なんて悲劇も起こり得ます。
仮に入社後すぐにテレワークが廃止されたとしても、自己責任となります。
一方で、テレワークを希望する人からすると「なるべくテレワークが継続される可能性が高い企業を選びたい」と考えるのではないでしょうか。
本記事ではそんな方に向けて、実例を交えながら以下の観点でテレワーク実施企業の傾向について解説していきます。
- 出社推進企業の傾向
- テレワーク推進企業の傾向
- 現場の課題感をベースに今後のテレワーク推進の全体的な流れを予想
テレワークの普及状況を振り返る
テレワークの今後を考察するに辺り、まずは直近のテレワークの普及状況について振り返ってみます。
総務省の「通信利用動向調査報告書」に企業のテレワーク普及状況の推移について記載があります。
- テレワーク普及状況の推移
- 産業分野別テレワーク普及状況
- 従業者規模別テレワーク普及状況
具体的にみていきましょう。
テレワーク普及状況の推移「テレワーク導入企業は50%近い」
平成29年が13.8%で翌年の平成30年から19.0%と1.5倍になっています。
さらに、新型コロナウィルス蔓延対策が行われた令和2年には47.4%と倍増しました。
一方で、半数の企業には導入すらされていない状況です。
導入予定がない企業もまだまだ存在しています。
導入企業の業種(製造業/非製造業など)によって導入状況が変わりそうなので、産業分類別にテレワークを確認しましょう。
テレワークの普及状況を産業分類別にみていきましょう。
産業分野別テレワーク普及状況「情報通信業が導入率92.7%と圧倒的」
産業分野別に見ると、情報通信業のテレワーク実施率が92.7%と圧倒的でした。
情報通信業は通信機器を取り扱っている企業以外では無形商材を取り扱っていることが多く、テレワークで生産や開発・組織運営をほぼ完結することができます。
私も情報通信業のエンジニア職種として仕事をしていますが、中途採用の受け入れやキックオフなどの特殊事情以外はテレワークで業務が完結しています。
また、テレワーク実施に必要なIT環境を自社で構築できたり、生産性向上に寄与できるITツールを使いこなせるITリテラシが備わっていることも、テレワーク実施率を押し上げている要因と考えています。
テレワークを継続する上で、選択する産業はとても重要と考えます。
従業者規模別テレワーク普及状況「企業規模が大きいほどテレワーク導入率は高い」
従業員規模別のテレワーク普及状況を見ると、従業員規模が大きいほどテレワーク普及率が高いことがわかります。
従業員規模が大きい企業は従業員規模が小さい企業と比べて財務的な余裕があるため、テレワークに必要な設備投資やコンサルなどを雇って人事企画の制度設計が行いやすいのが理由ではないかと考えられます。
テレワークを実施しようとすると、VPNの導入か業務環境をクラウド化する必要がありますが、小さい企業だと投資回収見込みの立たない一時的なキャッシュの悪化は経営状況の悪化に繋がるため、導入に踏み切ることが中々難しいのではないかと考えます。
テレワーク普及企業の構造
これまでの情報から、テレワーク普及企業の構造を四象限で表してみます。
企業規模 | 商材形態 | 普及率 |
---|---|---|
大きい | 有形商材 | (A)普及率 中 |
小さい | 有形商材 | (B)普及率 小 |
大きい | 無形商材 | (C)普及率 大 |
小さい | 無形商材 | (D)普及率 中 |
テレワークが行われる若しくは今後も継続する可能性が高いのは、「企業規模が大きい」且つ、「無形商材」を扱っている企業だと考えられます。
代表的な企業だと「リクルート」や「Yahoo」が該当します。
ただし、「企業規模が大きい」且つ「無形商材」を扱っている企業でも出社を前提に切り替えている企業もあります。
それは「楽天」です。楽天は週4日以上の出社を原則としました。
理由は「コミュニケーション活性化」と発表されていますが、それだと抽象的すぎるのでここで独自の視点で深堀していきます。
なぜ楽天がテレワーク中心から出社に切り替えたのかについて考察していきます。
楽天原則出社の理由は「トップダウンカルチャー」が原因ではないか
楽天が原則出社に切り替えた原因について考察していきます。
これは元楽天の同僚などに話を聞いた上での私なりの仮説です。
筆者は、楽天が原則出社にかじを切った理由は、「トップダウンカルチャーでテレワークによる生産性維持がしづらくなった」からではないかと考えました。
筆者が元楽天の同僚に話を聞いた際には、楽天市場の仕様変更なども三木谷社長の承認が必要で、現場に権限が移譲されているとは言いづらく、トップからの指示や確認が前提の仕事が多かったそうです。
まずは、このようなトップダウンカルチャーがなぜテレワークに不向きなのかについて考察していきます。
トップダウンカルチャーがテレワークで生産性低下の問題となる理由
トップダウンカルチャーがテレワークで生産性低下の問題となる理由は、「指示を受け続けないと仕事が効率的に進まない」からだと考えています。
- 作業内容を手取り足取り指示を受けている
- 手が空いても能動的にすぐに仕事を取りにこない
- 問題解決に必要な周りとの協働も積極的に行えない
いわゆる「テレワークにはコミュニケーションの課題がある」と言われる仕事面の具体的な中身です。
トップダウンカルチャーは、基本的に誰かの指示を受け続けることで仕事の生産性が向上する仕組みであるため、すぐに指示を受けられない・的確な指示がタイムリーに受けられない状況だと生産性がドンドン落ちていくのではないかと考えています。
【妄想】楽天がテレワークをやめたもう一つの理由はクリムゾンハウス?
これはあくまで筆者の妄想レベルですが、楽天がテレワークをやめたもう一つの理由として、楽天本社がある二子玉川のクリムゾンハウスの活用があるのではないかと考えます。
楽天は二子玉川にクリムゾンハウスという素晴らしい本社を構えています。
このクリムゾンハウスは賃貸借契約なのですが、ビル自体が楽天をほとんど借り上げる形となっています。
クリムゾンハウスのコンセプトは「オフィスと家の中間のようなハウス」であり、中にはスポーツクラブや託児所などが併設されており、同社の働き方改革を謳う上で重要なランドマーク的な位置付けであると理解しています。
ただ、世の中がテレワーク中心になる中でこの設備が使われなくなり、契約期間もまだ残っている中で楽天の生産低下の課題もあいまってか、出社に切り替えていったのではないかと考えています。
というのも、テレワーク推進企業は都内オフィスなどをかなり返却や売却を進めているんですよね。
リクルートホールディングス(HD)が登記上の本社を置くオフィスビル「リクルートGINZA8ビル」(東京・中央)を不動産大手ヒューリックに売却したことが分かった。売却額は200億円程度のもようだ。1981年竣工の同ビルはリクルートを象徴する拠点として知られる。新型コロナウイルスの問題が続くなか、保有資産を現金化し財務基盤を強固にする。
日本経済新聞
リモートワークのメリットとデメリットが議論される中、LIXILは都内のオフィスを9割削減し、コロナ終息後も元には戻さない。
DIAMOND ONLINE
電通グループが本社ビル売却の検討を発表するなど、都心のオフィスを売却・縮小する動きが大企業で広がっている。丸紅は5月にも移転する新本社で社員用の座席数を3割減らす。新型コロナウイルスの感染拡大で社員のテレワークが定着し、都心に大型のオフィスを構えている必要性が薄れてきているため
産経新聞
上記の企業は自社保有ビルは比較的売却しやすいのですが、楽天はあくまで賃貸借契約なので有効活用するしか選択肢になかったのではないでしょうか。
そのため、一つの視点として自社ビルを都内に持っている企業や売却をしてしまっている企業は、今後もテレワークを中心に組織運営を行う可能性が高いのではないかと考えます。
ボトムアップカルチャーならテレワークで生産性低下しない理由
一方でボトムアップカルチャーなら、なぜテレワークでも生産性が低下しないのでしょうか。
私はボトムアップもトップダウンも両方のカルチャーを転職によって経験していますが、ボトムアップカルチャーの現所属会社は以下のような特徴があります。
- 抽象度高く仕事を与えられる
- 成果主義で評価期間ごとに求められる成果が明確に定義
- 仕事に対して本人の意志が求められる
私も転職してからボトムアップの仕事の仕方に慣れるのに正直時間がかかりました。
ただ、慣れてしまうと上司から仕事の指示を受けるのは期初の成果すり合わせくらいで、後は高度な自律を求められる仕事となります。
当然、与えられる仕事の抽象度は役割(役職・リーダー・メンバーなど)によって違いますが、手段を検討する上では本人の意志を強く求められます。
これはテレワークが始まる前から実施されていたことなので、テレワークが始まった後も仕事を推進する上では高度な自律が維持されており、生産性低下が課題として発生していないものと考えられます。
カルチャーに限らずテレワークは組織運営上の問題あり
では、ボトムアップカルチャーなら何の問題もなく出社と変わらない運営ができるのでしょうか。
答えはNoと考えています。
テレワークはカルチャーに限らず以下のような問題があると考えています。
- 会社に所属している事を感じることが減り、エンゲージメントが低下する
- 「会社=仕事を投げてきて給料がもらえる」存在に成り下がり、業務委託のようなドライな関係性に
- 無駄話ができずにタスクを延々とこなすため、人との交流が好きな人はメンタル不調に陥りやすい
- メンタル不調を検知する「顔色」「目の動き」など、何となくの元気の無さを検知しづらくなる
- 仕事とプライベートの切り替えがうまくできずに、心身ともに疲れやすくなる
これもネット上ではよく「テレワークのコミュニケーション問題」と一まとめにされていますが、筆者が自組織を運営したり会社の中で問題を話し合う中で出てきた具体的な内容となります。
これらは、以下のような問題に直結していきます。
- 部署間の仕事の投げ合いなどのトラブル
- 退職者の増加
- メンタル不調の増加
これらの問題が厄介なのは、「テレワークのコミュニケーション上の課題としてすぐに顕在化するわけではない」ということです。
「徐々に積み上がってきて、気づいたら課題になっていた」という状況がしばしばみられます。
わかりやすく課題が顕在化しているわけではないので、わかりやすい対策をとても打ちづらいのです。
例えば、テレワーク上のコミュニケーション課題の打ち手として考えられるのは「出社する」というのがとてもわかりやすいのですが、出社を強いられる社員からすると自分のBenefitとして捉えることができません。
むしろ以下のような会社に対して別の不満が出る原因を作り出してしまう可能性すらあります。
- 出社によるストレス
- 家事・育児に時間を充てることができない
- 副業に時間を充てることができない
これから企業は、徐々に犯されているテレワーク上の問題と出社のバランスという難しい舵取りを要求されていくことになります。
コントロールを間違えると逆に退職率が上がる可能性もあるため、よほどクリティカルな課題が発生していない限りは「全て出社」にいきなり切り替える企業は少ないのではないかと考えています。
今後テレワークはハイブリット型に移行していく
組織運営上の問題を中長期的に捉えると、現在テレワーク中心の会社でも徐々に出社を増やしていくハイブリット型に移行していくのではないかと考えています。
それは「原則テレワークだけど、こういう時は出社してね」というような方針になってくるのではと予想しています。
主に以下のような組織カルチャーを感じられたり、センシティブな会話をする際のガイドラインが設定されてくるのではないでしょうか。
- 定期的な組織のキックオフ
- 組織ごとのメンバーミーティング
- 評価面談や重要なフィードバック
会社側は明確に「テレワークと出社のハイドブリッド型に移行します」という宣言をするのではなく、あくまでポイントポイントで出社を要請するというのを基本路線とした言い方をして、社員から反発を喰らわないように徐々に出社アレルギーの耐性をつけていくような運営を目指すでしょう。
一旦フルテレワークを宣言している会社でも、2〜3年を掛けてハイブリット型に移行していくのではないかと考えられます。
【まとめ】今後テレワークを狙うなら
テレワークの推進企業とテレワーク普及状況から今後のテレワークの展開を予想してみました。
テレワークをなるべく持続して人生を過ごしたいなら、以下のような視点で企業を選択する必要があると考えます。
- 無形商材を扱っている企業
- IT系など情報通信業
- 大企業
- ボトムアップカルチャーの企業
- ただし、上記条件に該当していても穏やかにハイブリット型に移行する
ただし、変化の激しい時代であり、新しいテクノロジーや組織施策と共に組織運営上の課題などが解決される可能性もあるため、世の中の動向に注視しながら、自分に合った企業を選びましょう。